2012年3月17日土曜日

いろんな外国語⑲ヘブライ語―もうひとつの「右から左へ」書く言語

まず上の写真をごらんいただきたい。例によって、不慣れな手書き文字ですみません。

これはイスラエルの都市テルアビブという地名を、上から順にヘブライ語の活字体、筆記体、それに相当する音価、カタカナで書いたもの。

右から左へ読む。

これを見ておわかりのとおり、日本人にとっては活字体もなじみがないうえに、筆記体に至っては、活字体との関連づけが非常に難しい。




Aの音を表わす文字アレフ(右から三番目)の活字体はNのようでありXのようでもある。ところがそれを筆記体にするとkだ。

しかし、このkのような文字も、書き順はアルファベットのkと違って、右側の部分をひらがなの「く」のようにして一筆で書いてから、左側の縦棒を加える。

なぜこういう書き順になるかといえば、ヘブライ語は右から左に書き進むからだ。



右から二番目のラメッドの筆記体は、まるで毛根つきの髪の毛みたいな形だが、これも下から上へと書く。

活字体の下には・・とかTのような印がついているが、これが母音符号ニクードである。「・・」は「エ」、「T]は「ア」、「・」は「イ」の母音を表わす。

そして筆記体ではこのニクードがない。



活字体でも、ニクードを使って母音を完全に表わすクティーブ・ハセルという正書法は、ふつうは外国人やこども向けであり、一般には、アレフベート(アルファベット)の中の、特定の二文字(ヴァヴとヨッド)を必要に応じて添え、「読み方のヒント」を表わすだけのクティーブ・マレーという正書法が使われる。



ぼくはヘブライ語の学習書を日本発売のものを4種(うち3冊はCD付き)、アメリカ発売のものを1種使っているけど、筆記体とその書き順にまで解説に及んでいるのは、日本で出ている1冊だけだ。

ロシア語もそうなのだが、筆記体まで丁寧に説明してくれる本は少ない。



このヘブライ語(現代ヘブライ語)は、話し言葉としてはほぼ1800年以上にわたって使われなくなっていたユダヤ人の言語=古代ヘブライ語を、ベン・イェフダーというロシア生まれのユダヤ人が19世紀の終わりに、ただひとりの努力によって現代に甦らせたという、世界でも類をみないプロセスをたどってイスラエルの公用語となった言語である。

そのことを書きだしたらキリがないけど、朝鮮半島におけるハングル文字の創案以上のインパクトがある大変革なのだ。



ところで、突然話は変わって、昨日のブログのクイズの答えである。


《とんかつ、うな重、エビフライ、ゆでたてのカニ、チーズバーガー……これに共通するものはなにか?》



ユダヤ人はきわめて厳しい戒律に基づいて取捨選択された食材による食事をとる。カーシェール(英語表記kosher=コーシャー)と呼ばれる。

肉類は「ひづめが割れていて、反芻をする動物」の肉しか食べてはいけない。それも、所定の方法による血抜きが求められる。

創世記第9章4節の、ノアとその子たちを祝福する神の言葉の中に「しかし肉を、その命である血のままで食べてはならない」とあるからだ。

だから牛肉はいいとしても、血の滴るようなレアステーキはダメ、

そして、ひづめが割れている動物であっても反芻をしない豚を食べてはいけない。

イスラム教徒は豚を不浄なものとして食べないが、それよりもう少し複雑な規定によってユダヤ教徒は豚を食べない。

よってとんかつはNG。



魚は「うろこ」と「ひれ」を持つものしか食べてはいけない。そこでエビふりゃあもカニもNGとなる。

ウナギの場合は、ひれはあるし、うろこもじつは皮下に所有しているが、見た目上、うろこはないように思えるので、これも食べてはいけない魚に分類される。

そこで、うな重もNG。



チーズバーガーは牛肉だし、ウエルダンだし、チーズもタブーではないから、一見問題なさそうに思える。

だがカーシェールでは、肉と乳製品を同時に食べてはならず、同じ食器に盛ってもいけない。それだけでなく、同じ道具を使って調理してもいけないし、保存場所もべつにしなければならないという規定がある。

よって、チーズバーガーはNG。ステーキを食べたあと食後にチーズ、というのもNG。



しかしユダヤ教徒の中にも食い道楽がいるのか、改革派と称する人々の中には、カーシェールに縛られるのはやめようと、この規定を廃する人々もいる。

その気持ちはわかるよなあ、と思う。