2012年2月28日火曜日

いろんな外国語⑮精神的位置づけで所有格が変わる言語―ハワイ語

娘がハワイに行ったとき、ハワイ語の専門書を探して買ってきてもらった。書店員によれば、これ以上詳しいものはありません、という400ページ超の代物だ。

ハワイ語というのは、ハワイアンやフラダンスでもやらないかぎり、一般の日本人にはほとんど必要性のない言語である。そもそもハワイに住んでいる人たちが、もう必要としていないのだから。

現地では、それではいかんということで、いちおうハワイ州では英語と並んで公用語でもあるし、保護の動きも出てきているが、英語との両立はけっこう難しそうだ。




ハワイ語には、AEIOU の5つの母音と、たった8つの子音しかない。HKLMNPW である。

つまり CDFGJQRSTVXYZ がないのだ。

母音と子音合わせてたったの13文字! これに加えて母音の上に「-」をつけて長母音を表わすカハコーという記号と、母音の前に「‘」をつけて、日本語でいうところの促音「ッ」を表わす「ッオキナ」という記号があり、これは非常に多用される。

むしろこれは語中にしか現れない日本語の促音というより、語頭に現れるハングルの濃音と捉えたほうがよい。だから韓国人・朝鮮人には、ハワイ語はかなりなじみやすいだろう。



「アロハ・オエ」というあまりにも有名な曲の「オエ」は「あなた」という意味だが、これも「‘oe」と綴り、「ッオエ」となる。

歌はメロディに乗るからハッキリ現れないが、ネイティブ・ハワイアンが歌うと、ちゃんと「アロハ…ッオエ」と発音している。これがエルヴィス・プレスリーになると、さすがにッオキナの存在はなんも考えてない(笑)。



ハワイ語の語順はきわめて特徴的である。なにしろ平叙文でも動詞が文頭にくる。これは日本語にも英語にもドイツ語にもない特徴だ。

スペイン語やイタリア語では、動詞の活用形によって主語が明瞭であるときは主語を省く。したがって平叙文でも動詞が文頭にくるけれど、それとはまったくワケが違う。

そもそもハワイ語では動詞は活用しない(したがって時制を表わす単語が別にある)。

主語は省略されず「動詞+主語+目的語」の順で並ぶのだ。これじゃ、英語では疑問文の構造だ。



前にぼくは「その国の語順は、その言語を使う民族の発想順である」という趣旨のことを書いたと思うが、ハワイ語にふれると、そのことを痛感する。ハワイ語を使っていたころのハワイ人は、「なにをやるか」が意思表現の先頭にきていたのだ。

さらに驚かされるのが、英語のmyとかyourとかhisなどにあたる所有代名詞(購入した文法書では所有形容詞と言っている)が、話者との精神的位置づけによって変化することだ。



カンボジア語に「A子音字」と「O子音字」の分類があることを以前書いた(12/2/6)が、ハワイ語の所有格にも「A-class form」と「O-class form」がある。そして、この分け方がきわめてユニークなのだ。

自分の意思が関与する所有関係はAクラスの所有格を使い、関与しないものはOクラスの所有格を使う。

と書いてもピンとこないだろうが、具体例を挙げると驚きますよ。



「私の妻」は自分の意思で結婚した結果、妻になっているからAクラス、「私の娘」も自分(と妻)の意思でつくったのだからAクラスの所有格を使う。

しかし「私の親」は、子供側の意思が関与せずに親となっているのだから、子供の立場からみるときはOクラスの所有格となる。



さらに「それに乗ることができるもの」はOクラスという規則があり、自分ちの車についてはOクラスの所有格を使うが、とくに「おれが買ったんだぜ、大枚はたいて」と強調したいときは自分の意思が関与するというルールにしたがい、Aクラスになる。

さらにさらに、これらの規則に加えて、とくべつな愛情をもった所有関係を表わすときは、また別の所有格があるのだ。



そしてもうひとつの特徴は、アラビア語と同じように、単複の概念が二段階ではなく、三段階に分かれていること。すなわち、単数・双数(2つ)・複数(3つ以上)。

英語で育ってきたハワイ人が、こうした先祖の言語のルールに戻るのはえらく困難なことだ。東京人が大阪弁をしゃべるのとは話が違う。頭の根本的なパーツを取り替えないといけないのだから。



なんだ、子音がたった8つかよ、と単純にあなどるわけにはいかないのが、ハワイ語である。