2012年2月25日土曜日

いろんな外国語⑭ハンドスプリングスローをやる国の言語―アイスランド語

いや~、妙なところで盛り上がりましたね、サッカー・キリンチャレンジ杯のアイスランド戦。

後半から登場した7番ソルステインソンのアクロバティックなハンドスプリングスローに、最初は度肝を抜かれたスタンドも、つぎからは拍手と歓声で催促。

本人も悪い気がするはずもなく、ほとんど勝負そっちのけでパフォーマンスに徹したような。いや、なかなかこれはあなどれない技法だということが、回を重ねるごとにわかってきた。

さて、その彼らがしゃべっているアイスランド語について。




アイスランド語はほかの北欧の言葉と違って、孤立した島で伝えられていたから、10世紀ごろの古アイスランド語の形をいまにそのまま伝えている。

なので、英語やドイツ語の起源を研究するにも欠かせない言語となっている。

そしてユニークなのが、名前の付け方だ。



昨夜の試合で、アイスランド側の選手が先発も控えも全員が「~ソン」になっていたのは、すぐに目についた思うが、これは、たとえば日本で「吉田」「本田」「村田」「上田」「山田」みたいに、偶然「~田」の苗字が揃ったというケースとは違う。

といって、アイスランド人の苗字がみな「~ソン」だというのではない。そもそも「~ソン」は苗字ではない。アイスランドには姓=ファミリーネームが存在しないのだ。

ぼくが学習のために使っている横山民司先生の「CDエクスプレス アイスランド語」によれば、アイスランド人の名前の付け方というのは、まず男か女の個人名を考える。




たとえば昨夜のゲームで、あのハンドスプリングスローを見せた7番は、ステインソール・フレイル・ソルステインソンというが、彼の場合は「ステインソール」が個人名になる。それに「フレイル」というミドルネームもついているが、ミドルネームなしの選手も多い。

そして最後の「ソルステインソン」だが、これはロシア人の父称に相当する部分で、原則として父親の名前の属格+sonになる。

アイスランド語では固有名詞も格変化し、属格(英語でいえば所有格)にはsがつく。だから、あの軽業師的スローインで日本中を楽しませてくれた彼のお父さんの名前は「ソルステイン」ということになる。

当人の名前が「ステインソール」で、父親の名前が「ソルステイン」。よく見ると、順序が逆になっているだけだ。父が「正義」で息子が「義正」になったようなものだ。



で、男子の場合、「父親の名前の属格(~s)」に「息子を意味するson」をつける。だから、アイスランド人男性の名前はすべて「s+son」で終わることになる。

女子の場合は「父親の名前の属格(~s)」+「娘を意味するdottir」(文字化けするのでアクセント記号は打たないが、実際にはoの上にアクセント記号)をつけるので、女性の名前は「s+dottir」という綴りで終わる。



ロシア人の場合は「名前」+「父称」+「姓」という構成で、父称と姓に男性形と女性形があるが、ちゃんとファミリーネームが存在する。しかしアイスランド人には姓がなく「名前」+「父称」となる。

そんなわけで、ソルステインさんの息子のステインソールさんは、たしかにソルステインソンなのだが、苗字で呼ぶという日本的な感覚で、後ろの名前でアイスランド人を呼ぶと、おかしなことになる。

石原伸晃に向かって「慎太郎の息子」と呼びかけているような形になるわけだから。


石原伸晃をアイスランド式に命名すると「ノブテル・シンタローソン」になる。だが、親離れしているはずの幹事長に向かって「シンタローソンさん」はないだろう。「ノブテルさん」でなければ。

だからソルステインソンは、ファーストネームのステインソールで呼ぶべきなのだ。

でも、個人名で呼ぶ習慣のない日本人は、ファーストネームで呼ぶことがどうしてもできない。ここが決定的な文化の違いだ。



ノルウェーなどほかの北欧諸国には姓があるが、それでも姓で呼びかけることは、病院や公式の場以外ではほとんどないという。その点で北欧諸国は、米英以上に徹底して「ファーストネーム主義」である。