2012年2月4日土曜日

スリのテクニック

新聞によれば、スリの前科が16もあり(むかし流に言えば前科16犯)最後のおつとめを機に「引退」を決めていた72歳の女が、その神業を見せてほしいと別の女に頼まれて、京都の東寺で11月21日にスリをした罪などで、また逮捕されたという。

21日といえば「弘法さん」の縁日である。




真言宗の開祖・弘法大師こと空海が入寂(僧が死ぬこと)したのが、3月21日(ぼくの誕生日)だったのを記念して、毎月21日に東寺真言宗の総本山である東寺の御影堂で供養が執り行なわれ、それにともなって市が立つようになった。

うちの妻もちょくちょく「弘法さん」に出かけていって買い物をしてくるが、大変な雑踏なのである。やっぱりスリの仕事場になっていたわけだ。



ところで、旧ホームページでスリのテクニックについて書いたことがあった。不特定多数の人が見ているサイトでは、具体的な方法は書けないが、男性が尻ポケットに入れている財布は、どんなにキチキチに入れていても、まったく気づかれずに奪うことができる、と述べた。

つい先日も、ぼくはほんの出来心から、その方法で他人の財布をスッた。おいおい!

担当編集者のだけど(笑)。



彼の財布は二つ折りにするタイプで、ズボンの尻ポケットに入れていれば、その二つ折りが広がろうとする圧力もあって、容易には抜き取れず、無理にやっても必ず瞬時に気づかれる――と思われる状態であった。

が、ある方法で、いともたやすく「スる」ことができて、彼はまったくそれに気づかなかったのである。



人間が、いかに「スリ」の前で無力であるかには、こういう例がある。

マジシャンが行なう「はめている腕時計の抜き取り」である。バンドの留め金の形態によって、三種類のはずし方があるのだが、その演技およびレクチャーを見ても「そりゃ、スリとられるほうもサクラだからだろ」と、ふつうは思う。

ぼくもそう思っていた。

ところがあるとき、超絶ワザの持ち主で日ごろから尊敬している某マジシャンにやられてしまった! ぼくは自分の左腕にはめていた腕時計を、いつのまにか抜き取られて、彼がはめていることにまったく気がつかなかったのだ。

くっそー、である。

だって、ぼくはそれをどのようにやるのか、方法を知ってたんだから。知ってるのにやられた。



引っかかった原因はたったひとつしかない。

「いまからあなたのしている腕時計を抜き取りますよ」と予告されれば、誰でも警戒する。ぼくの場合は、こうだった。

コインマジックをいろいろ見せられ、では10円玉を握ってください、と、両手だったか片手だったか忘れたが、10円玉を握らされ、両腕をまっすぐ前に突き出して、さあ、これからどんな不思議な現象が起きるのかと待ち構えていたら、いつのまにかマジシャンの手首に、ぼくがしていた腕時計がはめられていたのである。

あぜん!

マジシャン氏によれば、かけているメガネをはずされても気づかない客がいるという。にわかには信じられないと思うだろうが、じゅうぶんありうる話なのだ。



さて、ズボンの尻ポケットに財布を入れる習慣のある男性諸氏に警告を込めて申し上げておく。

①ある「錯覚」を用いれば、尻ポケットに入れた財布は、本人がまったく気づかないうちに抜き取ることができる。

②それは、ボタンでフラップを留めることができるタイプのポケットでも同様である。

③ポケットから大きくはみ出している細長い札入れのタイプはもちろん、完全にポケット内に収まってしまう二つ折りタイプの財布でも気づかずに抜き取れる。

④たとえばジーンズの尻ポケットのように、もともとタイトな空間に、中身でふくらんだ二つ折りの財布を「キツキツに」突っ込んでも、抜き取られた瞬間がわからないという信じがたい方法がある。

以上は、ぼくに財布を抜き取られた某社の某くんが、身をもって真実だと証明してくれるだろう。



ひとつだけ言えるのは、雑踏の中で後ろから突き飛ばされたら、その瞬間に、怒るよりも先に、ズボンの尻ポケットの安全確認をすべきだ、ということ。

そのときにはもう手遅れなんだけど。



ああ、そうか、とわかった気になるかもしれない。

突き飛ばしてよろけた瞬間に抜き取るんだろ?――ちがう。

抜き取った直後に突き飛ばして、抜き取られた感覚をごまかすんだろ?――それもちがう。

考えついたやつは敵ながらあっぱれというしかない「コロンブスの卵」的方法があるのだ。

じつは「抜き取る」のではないからだ。



いくら尻の皮膚が鈍感でも、抜き取られたらわかるさ、と誰もが自信を持っている。

だったら、抜き取らずに奪えばいい、という大逆転の発想だ。これを考えたやつはスゴイと思う。



とにかく重要なのは、尻ポケットは安全な財布の入れ場所ではない、ということだ。

かくいうぼくも、ジャケットを着ないときは、二つ折りタイプの財布を尻ポケットに入れている。スリがその気になれば、ボタンは無力だが、それでもボタンを留められるタイプのポケットのほうが被害に遭う確率は格段に減るだろう。

だからぼくは、ボタンのかからないジーンズの尻ポケットなどに財布を入れるときは、必要最小限の金額にするようにしている。

万札とクレジットカードがごっちゃり入ったブランドものの札入れを、これみよがしに半分ほどポケットからのぞかせている人々は、どうぞすってください、と言いながら街を歩いているようなものなのだ。

みなさんもご注意ください。