2011年11月30日水曜日

必見のオープニングとエンディング「東京暗黒街・竹の家」(1955)


左はシャーリー山口。のちの自由民主党参議院議員にして、参院外務委員長まで務めた山口淑子。戦前の名を李香蘭(り・こうらん)。

撫順生まれの奉天育ち。エキゾチックな容姿から中国人スターと本気で信じられ、第一次上海事変に関与したとの噂高い男装の麗人工作員「東洋のマタ・ハリ」こと川島芳子とも交流があった。

ことし91歳でご健在。

そして右は、ロバート・スタック。「チャーン、チャラッチャン、チャッチャ~ン」というメロディがいきなり出てきたら、あなたは通(ツウ)。





1959年から1963年まで日本でTV放映された「アンタッチャブル」で、アル・カポネと対決する実在の捜査官エリオット・ネスを演じた。




李香蘭時代の山口淑子の代表的な出演作は『支那の夜』(1940)。作中挿入歌の「支那の夜」「蘇州夜曲」は大ヒット。前者が現在では放送禁止であることは、11月26日のブログ「トム・ピリビ~」に書いたとおり。

オリジナル・レコードは渡辺はま子。この人の若いころが、またエキゾチック美人である。

巨匠・西條八十作詞による「支那の夜」は、「赤城の子守唄」をつくった竹岡信幸のチャイナ・メロディがピッタシはまり、渡辺はま子の、まさに胡弓そのものといった歌い方とあいまって、歴史に残る名曲となった。

内容的には少しも差別的なところはない。ビクビクせずに放送すべきだ。まあ、いまはいくら放送禁止にしてもyoutubeで聴けるわけだが。



さて、この映画だ。

れっきとしたハリウッド映画で、原題は"House of Bamboo"という。

「東京暗黒街・竹の家」なんて、超ダサダサな邦題がつけられてしまったために、見向きもしない人も多いが、ぼくは声を大にして言おう。この映画は面白い!



なんといってもオープニングだ。

総天然色シネマスコープの画面いっぱいにデーンと富士山。

とにかくこのころのガイジンからすれば、日本といえば富士山なのだ。ハンフリー・ボガートと早川雪洲が共演した「東京ジョー」(1949 )(※11/4のブログ参照)もそうだった。

だが、この映画はダテに富士山が出てるのではない。このあとがいいのだ。



季節は冬。ロケ時期は2月だが、暖冬のいまと違って、富士の裾野に広がる富士吉田の村も雪景色だ。その富士山をバックにした素朴な田園風景。菅笠をかぶった農民たちが畑作にいそしんでいる。


そこを煙を吐きながらSLがやってくる。時代設定は1954年(昭和29年)。

当時、すでに沼津~静岡間は電化されていたにもかかわらず、SLだ。SLじゃないと絵にならないから、架線が張ってあっても無視なのだ(笑)。

そしてサミュエル・フラー監督の強引な要求に、なんと日本外務省が率先して協力、昼間の列車運行を三日間も止めてロケに全面協力した。やるもんだな、日本のお役所も。




SLが引っぱっているのは米軍の補給物資を積んだ貨車群だ。日米双方の警備がついている。と、突然、SLが汽笛を連発する。前方に、線路上で牛車が立ち往生しているのだ。必死にどかそうとする菅笠姿の村人。

なんとも牧歌的な風景だが、これが列車を停めさせるための罠。

SLが停止すると、牛車を引いていたり、クワをもって農作業をしていた農民がいきなり列車に襲いかかる。雪の富士山をバックに、大列車強盗だ。



この事件の日米合同捜査に乗り出す日本側のキタ警部が、またもや出ました早川雪洲。しかし、この作品ではあくまで彼は脇役だ。

途中は省くが、ロバート・スタック演じるエディーは、東京を根城にしているアメリカ人ギャング団の仲間と見せかけて、じつはその潜入捜査の協力者。そして山口淑子演じるマリコは、そんな彼を好きになってしまう。

ふたりの愛を描きながら、カメラは昭和20年代末の東京をあますところなく描いていく。「東京ジョー」での付け足しのようなロケシーンと違って、リアルな戦後の東京を映し出している。




で、ラストがまた見せる。ギャング一味が銀座で真珠店の襲撃を企むが、そのプロセスでエディの正体がばれてしまい、ここからギャングの親玉とエディとの一騎打ちになだれ込む。


そして最後のクライマックスが、松屋浅草店屋上だ。

ここには当時のデパート屋上の定番だった遊園地に加え、空中から落っこちてしまいそうなダイナミックな円盤形回転アトラクション「スカイクルーザー」があった。

ネットで検索すれば、写真はすぐ見つかる。残念ながら、子ども時代のぼくは、ここに連れていってもらったことがないが、かなりの高度感だ。



そして、このスカイクルーザーでの決闘を地上で見上げるエキストラの数のすごいこと! さすが日本政府全面協力作品だ。

まさかハリウッド映画で昭和の東京を、これだけじっくり見られるとは思わなかった。

スタジオセット部分は香港ノリであったり、例によってヘンテコな日本語をしゃべる日本人続出だけど(とくに冒頭のSL運転士役ぐらい本物の日本人を出せよと思ったが)、それを割り引いても、東京ロケが捉えた昭和の香りは、なんとも懐かしい本当の風景なのであった。