2011年8月18日木曜日

インビクタス/負けざる者たち(2009)

本日国民栄誉賞を受けたなでしこジャパンのメンバーで、何人がこの映画を見ているだろうか。まだ見ていない選手には、このタイミングだからこそ、ぜひ見てほしいと思って、ここにご紹介。



写真はモーガン・フリーマン(左)とマット・デイモン(右)だが、フリーマンは南アフリカ共和国のマンデラ大統領役、デイモンはラグビー南アフリカ代表チーム「スプリングボクス」の主将フランソワ・ピナール役。

マンデラは、自伝が映画化されたときに自分を演じてほしいのはモーガン・フリーマンだと名指ししていたのはよく知られた話。一方のピナールも実在の人物。つまり、実話に基づいた映画である。

そして監督は、もはや俳優というよりは監督として(ぼく個人の評価では)スピルバーグやキャメロンを完全に超えてしまったクリント・イーストウッド。

(※実話に基づいた映画ゆえ、実際のW杯の結果が知られている以上、「もっと読む」から先では、結末にもふれました。これから映画を見るから、スポーツ的事実として知られている結末であっても、まだ知りたくないという方は、ここまでにしておいてください)





アパルトヘイト時代の南アで27年に及ぶ幽閉生活を強いられたのち、1994年に大統領に就任したネルソン・マンデラは、人種差別の撤廃を実践するのと同時に、白人に対する報復の道を選ぶのではなく、融和の道を進めと政権スタッフに訴えた。

その方針のひとつの象徴として、翌1995年に南アで開かれるラグビー・ワールドカップに向けて、周囲の反対を押し切り、ナショナルチームを従来どおりの「スプリングボクス」で臨むことを決断する。

従来どおりの、というのは、ナショナルチームはたったひとりの黒人選手・チェスター・ウィリアムズを除いて全員白人で構成され、アパルトヘイトの象徴とみなされていたという、その状況を指す。

そのため南アの黒人たちは、ラグビーの試合があると、必ずスプリングボクスの敵を応援するありさまだった。

そして政権を得た黒人側のスポーツ関係者によって、「スプリングボクス」の名称廃止と、金と緑のシンボルカラーの変更が議決された。



だが、それにマンデラ大統領は待ったをかけた。報復ではなく、融和の姿勢で臨まなければならない。だから、いまのスプリングボクスを応援しよう、と訴えた。

そしてマンデラは主将のピナールをお茶に招き、W杯に向けて励ました。それが冒頭写真の場面だ。

さらにマンデラは、選手たちに、黒人地区の子どもたちにラグビーを教えてやってほしいと頼んだ。

W杯前にそんなヒマはない、と選手たちは当初不満を示したが、大統領からの依頼とあっては断れず、練習の合間にボランティア活動を行なう。そこで彼らは、黒人地区の現状をまのあたりにすることになる。一方で、黒人のあいだにはスプリングボクスへの親しみが沸いてきた。

いがみあっていた両者の距離が少しだけ縮まってくる。

映画では、大統領のシークレットサービスも黒人と白人の混成部隊となり、その葛藤もうまく描かれている。



だが、肝心のチーム力は悲惨なもので、それまでアパルトヘイトに対する制裁として南アはW杯への参加は許されておらず、ようやく迎えた自国開催のW杯だったが、スプリングボクスがどこまで勝ち進むかという予想は、みな悲観的。よくて予選リーグ勝ち抜きまで、というものだった。

ところが、まさに今回のなでしこジャパンと同様で、予選で強豪オーストラリアを破り弾みをつけると、決勝トーナメントに進出。さらに準々決勝ではサモアを、準決勝ではフランスを破って、ついに決勝戦まできた。



優勝をかけて戦う相手は、天下無敵・世界最強のニュージーランド「オールブラックス」。

彼らは予選リーグにおいて日本を145-17の国際試合新記録で蹴散らすなど(そのことも劇中で触れられており、日本人的にはトホホな気分)、王者の貫禄で決勝までやってきた。

オールブラックスといえば、あのマオリ族出陣の踊り「ハカ」で相手チームを威圧することでも知られている(youtubeでいろいろなバージョンが見られるが、対戦相手がトンガ、サモア、フィジーのときは、両者ともにハカをやるので、会場はめちゃ盛り上がる)。

ともかく決勝の相手がオールブラックスでは、多くの南ア国民も、ここまでくれば上出来だと思ったろう。その点でも、なでしこVSアメリカとまったく同じ構図である。



ところが試合は大激戦。南アが試合終盤まで9-6でリード。だが、土壇場で9-9に追いつかれてW杯初の延長へ。その延長残り7分で、オールブラックスにペナルティゴールを決められ9-12。善戦もここまでかと思ったら、残り5分を切ったところで12-12に追いつく。

なにからなにまで女子W杯によく似た展開。というか、なでしこのほうが似た展開になったわけだが…。

そして延長も残りわずかとなったときに15-12で逆転! 誰もが予想も期待もしなかった初出場初優勝を遂げてしまうのである。黒人大統領がバックアップした白人主体のチームで。



この試合場面もよく再現できていると思うが、なによりもマンデラ大統領の人間性を、モーガン・フリーマンがじつに味わい深く演じきっている。クリント・イーストウッドの演出もさすがである。

なでしこファン必見。すでに見た人も、澤さんたちの活躍と重ね合わせて改めて見ると、興奮するだろう。まるで主将のマット・デイモンが、「苦しいときは私の背中を見なさい」と英語で言ってるようである(笑)。



それにしてもマンデラ大統領、こういうふうに言葉に力を持つ国家のリーダーがほしいのだよなあ、日本にも……なんてことを、この映画を思い出しつつ考えてしまった、国民栄誉賞授賞式の日。