2011年6月6日月曜日

アイリス(2001)


前回、ラッセ・ハルストレム監督作品の紹介で「ショコラ」に出ていたジュディ・デンチのことを書いたけれど、ぼくはこの1934年生まれのイギリス人ベテラン女優が大好きで、彼女の出演作は片っ端から見た。

あるときはシェイクスピアと同時代に生きた、きわめて個性的なビジュアルをしたエリザベス1世を、あるときは007シリーズでジェームズ・ボンドの上司「M」を、あるときは若い美人教師に嫉妬していじめ抜く厳格で偏屈な女教師を、そしてまたあるときは第二次大戦の軍靴近づくなか、ロンドンで法律の網をくぐってヌードショーをプロデュースする未亡人を演じる。

もともとは舞台俳優だが、その存在感は映画の中で抜群である。

そのジュディ・デンチが、実在のイギリス女流作家アイリス・マードックの生涯を描いた作品に登場。若き日のアイリスを「タイタニック」のケイト・ウィンスレットが、晩年のアイリスをジュディ・デンチが演じる。監督はリチャード・エア。

原作は、アイリスの夫ジョン・ベイリーが書いた『アイリスとの別れ』。実話である。

「別れ」というのは、聡明な女流作家・詩人アイリス・マードックとしての人格を失っていく妻を見つめた記録だからである。アルツハイマーによって……。



アルツハイマーが発症してからのジュディ・デンチの演技はもちろんのこと、妻がどんどん人格を失っているのを見つめる夫役を演じるジム・ブロードベントがすばらしい。

この写真を見ただけでも想像がつくだろう。

彼はこの演技でアカデミー助演男優賞を獲得した。

「恋におちたシェークスピア」(1998)のエリザベス1世役ですでにアカデミー助演女優賞を獲っているデンチだが、ぼくは「アイリス」でアカデミー主演女優賞にノミネートされた彼女に、ぜひ獲ってほしかったなあと思った(ちなみにこのときの主演女優賞は「チョコレート」のハル・ベリーだった)。

日本映画にも痴呆をテーマにしたものは何本かあるが、「アイリス」の深みは群を抜いている。夫婦の情愛の描き方の差なのかな。



それにしても、自分がアルツハイマーになり、その初期段階で診断を受けたとしたら、ショックを受けるのだろうか。

それとも怒りを爆発させて否定するのだろうか。

それとも、すでにその宣告に対して深刻な反応をする力を失ってしまっているだろうか。



ただ、ぼくのような職業の場合は、医者よりも先に、原稿を読んだ担当編集者が気づくことになるのだろう。

そういう意味では、ぼくは出版各社にひとりずつ、精神科医を備えているようなものなのだ。

異変にお気づきの際は、早めにお知らせください(笑)。