2011年6月11日土曜日

正解と解説 第12問

さあ、ラスト4問。いよいよ最終コーナーを回ろうかというところ。

【問題】

⑫都内某ホテルでのカンヅメ中に、いちどひどいケガをしたことがある。なにしろホテルのフロント係がびっくりして飛んでくるほどで、妻も家から駆けつける一大事となった。それはどんな出来事?

k) アイデアを練るのに夢中で、正面玄関のガラス戸に頭から激突した
l) 約束に遅れまいとして走り、正面玄関で転んで利き腕を骨折した
m) 携帯電話の話に夢中で、正面玄関の外でタクシーに足を轢かれた
n) 連日連夜の疲労が蓄積し、正面玄関で失神して救急車で運ばれた
o) 些細なことで他の客と口論、正面玄関でボコボコに殴られた


【解説】

この事件は朝比奈耕作シリーズ『宝島の惨劇』執筆のためにカンヅメとなった山の上ホテルで起きた。

選択肢の中で、タクシーに轢かれた場合は、フロント係よりも先に飛んでくるのはドアマンだ。また失神した場合は、フロント係が飛んできたことなど自分でわかろうはずもなく、この二個は論理的に除外される。

利き腕を骨折した場合は、そこで原稿が書けなくなるわけだから、とりあえず出版社に一報を入れ、まず駆けつけるのは、カンヅメにしていた担当編集者だろう。

それに、妻には心配させないよう、電話で呼び出すよりも、手当てを受け終わって、ギプスをはめた姿で自宅に戻ってから事情を話そうと考える。

ただ、客に殴られたというのは、なさそうで、案外ありそうでもある(笑)。



真相はこうだ。

ホテルの部屋でアイデアを必死に考えて考えて、考え疲れたので、気分転換に外に食事に出ようと思って一階へ下り、正面玄関のドアへ歩いていった。

ドアが近づいてもなお、ストーリーのことを考えつづけ、下を向きっぱなしのまま早足で歩いた。

目の前にガラスのドアがあるのは見えていた。だが、自動ドアの反応よりも歩く速度が速かったのだ。

ドガーン!

ものすごい音が自分の頭のあたりから聞こえ、目の前が一瞬まっくらになった。強烈な衝撃だった。



ガラスは割れなかった。そりゃそうだ。ホテルの正面玄関のガラスが、かんたんに割れたら困るだろう。

しかし、割れなかったぶん、自分の頭のほうが壊れた。

「だいじょうぶですか!」フロント係が飛んできた。反射的にそっちを見た。フロントにいたスタッフ全員がびっくりした顔で私を見ていた。

おそらくロビーにいた客も、一斉に私に視線を投げかけていただろう。

こういうときは、痛さよりも照れくささのほうが先に立つもので「あ、だいじょうぶです」と答えてUターン。「だいじょうぶですか、ほんとにだいじょうぶですか」と重ねてたずねるフロント係に、「平気です、平気です」と繰り返しながら、カッコ悪くて逃げるように部屋に戻った。

そのときは体裁の悪さを取り繕うための撤退だったが、もしもあのまま平然と外へ食事に行っていたら、大変なことになっていた。

「だいじょうぶ」どころではなかったのだ。



部屋に戻って洗面所で鏡を見るころには、額のところが、焼きたての餅のようにプクーッと膨れあがってきた。

それだけでもおぞましいのに、じっと鏡を見ているうちにホラーのような展開になってきた。ふくらんだところから内出血がはじまって、紫色に変化しはじめたのだ。

そして、さらに時間が経過していくうちに、額の内出血がまぶたに降りてきたのである。うわわわわ。あわてた。ホラー文庫のカンヅメだったら、ネタになると喜んだところだ……なワケない。

マジメな話、このときほど引力の法則の恐怖を感じたことはなかった。このまま立っていたら血がどんどん下がって、顔面すべてが紫色になる!



本気でおびえた私は、タオルを水に濡らし、それを額に当ててベッドに寝た。

それでも事態は収まらない。

もはや「だいじょうぶ」などと強がってなんかいられなかった。枕元の電話でフロントを呼び、氷を持ってきてもらうことにした。

やってきたホテルマンも私の顔を見てびっくりだ。四谷怪談の主役級になっていたのだから。

ついで私は妻に電話して言った。「これこれしかじかのアクシデントがあったので、サングラス持ってきて」と……。

「これこれしかじか」と8文字で終われば事はかんたんだが、実際には起きたことを詳しく説明せねばならない。だが、動転した私の、作家とも思えぬ貧弱な描写力では、妻も何が起きたのかピンとこなかったに違いない。

ともかく、お岩さん状態を人目から隠すためのサングラスがいるのだ。



こうした事故があったにもかかわらず、私は自宅に戻らなかった。というか、ホテルにこもるしかない顔だったわけで、当初の日程どおりカンヅメを敢行し、『宝島の惨劇』は出来上がったのであった。

たしか、脱稿から出版までの最短日数記録を作ったような気がする。自己最短だけでなく、徳間書店の記録だと言われたのがこの作品だったような。



【正解】  k) アイデアを練るのに夢中で、正面玄関のガラス戸に頭から激突した
正解率48% 難易度6位


★★★★★★
【ここまでの正解リスト】
①イまたはア ②コ ③ソ ④テ ⑤ネ・ナ(逆順不可)
⑥ヘ ⑦ム・モ ⑧ヤ・ラ ⑨ン ⑩a・d
⑪g ⑫k




この問題も前題同様、挑戦者全員でみると決して正解率が高いわけではない。しかし、終盤戦で入賞圏入りを争う上位15名での正解率は高かった。15名中、まちがえたのはわずかに2名。

いよいよ順位争いは熾烈となり、残りは3題だ。いったい入賞ラインは何勝なのだろうか。そこがいちばん気になるところだと思う。

10位と11位との間に、ちょうど点数の分かれ目がきて、それにまたがった同点者はいない、ということはすでに述べたとおり。

また第1位は単独優勝で、こちらも同点者はいないとすでにご紹介済み。2位以下はどんな分布かは最終発表までのおたのしみ。