2011年6月4日土曜日

正解と解説 第10問

第10問は、旧ホームページの企画室にずっと掲載していたエピソードなので、さほど難しくなかったと思う。

【問題】

⑩ホームページで「羽合町の奇跡」として紹介した、朝比奈耕作「惨劇の村・五部作」を誕生させるきっかけを作ったある出来事は? 正解は二個ある。

a) 選挙
b) 噴火
c) 地震
d) 忘れ物
e) 落とし物


【解説】

この問題の解説は、「羽合町の奇跡」をまるごと再掲載するのがいちばん早い。

羽合町の奇跡

1990年、前年に会社を辞めてから成りゆきで専業作家になったはいいけれど、数冊出した本がいずれも売れず、「このままじゃ作家として食べていくのは無理かなあ」と先行き暗かったころの話です。

のちに発表した軽井沢純子シリーズの『ピタゴラスの時刻表』に、中国地方を舞台にした、やたら複雑な時刻表トリックが出てきます。同作では、それをパロディとして扱って笑っているのですが、じつは最初は氷室想介シリーズのメイントリックに使おうと本気で考えていたネタでした。

しかし、ああいう人工的というか机上の空論の時刻表遊びが、パロディならいいけれど、現代推理小説の軸になるはずもなく、けれども当時トリック最優先主義だったカッパ・ノベルスでは、新人作家が人間ドラマ主体では許されず、悶々としていたころでもありました。

そんなある日、信州から東京へと時間に追われながら車を運転していたところ、出発してからだいぶ行ったところで重要な忘れ物に気がつきました。

時間がない。しかしその忘れ物も絶対必要。

「最悪じゃないか。なんで時間のないときにかぎって!」と自分を張り倒したい気分でした。が、こういうコーフンしたときこそ事故のもと、と言い聞かせ、Uターンしてすぐに気持ちを切り替えるため、カーラジオのスイッチを入れました。山あいなので、必然的に入るのはNHK。



すると、ちょうどニュースの時間で、つけたとたん「ハワイ町の町長選挙で候補者ふたりの獲得票数がまったく同数になったため、くじ引きで町長が決まった」という報道が。

ハワイ町?

その地名を耳にしたことがなかった私は、日本にハワイがあるのかと驚いて、東京に戻るとすぐに地図でその場所を探したわけです。山陰の一角に目がいきました

羽合町!

こう書くのか。



そしてついでに周辺の詳しい地名を見ていたら、大山の麓近くに『般若』という名の集落を見つけたのです。

般若! これは氷室シリーズの舞台に使えそうだ。直感的にそう思った私はすぐさま現地へ。

そこで現場を見たところ、まったく別の壮大な人間ドラマを考えついてしまったのが《惨劇の村・五部作》のオープニングとなる『花咲村の惨劇』でした。

鳴かず飛ばずだった新人作家はこれでブレイクして、朝比奈耕作シリーズが増刷、増刷、また増刷。一気に花開いたのでした。



ふり返ってみると《惨劇の村・五部作》は、一瞬の運命の交錯でできあがったことになります。もしあのとき忘れ物をしなかったら。もしラジオをつけなかったら。もしそのタイミングが十秒か二十秒遅れて、ハワイ町という名前を聞き逃していたら。

それよりも、もっとゾッとするのは、もしも羽合町民の誰かひとりでも別の候補者に投票していたらあのニュースは存在しえず、そして私は永遠に般若という地名に気づくこともなく、『花咲村の惨劇』の誕生もなく、それから二、三年で作家吉村達也は消えていたかもしれないのです。

いやまったく、羽合町のみなさんには足を向けて寝られません。



そんなわけで「最悪は最良の伏線」という状況は、人生どこにでも転がっているものです。ただ「最悪」のときに、それが「最良の伏線」と気づかないだけなんですね。

ですから自分にとってよくない事態が突然発生しても「最悪」などと決めつけず、パニックにも陥らず、ベストを尽くして冷静に窮地を乗り越えることを心がけるようにしているわけです。人生の知恵かもしれません。
(2003_1212)

※ちなみに羽合町は2004年の市町村合併により、現在は湯梨浜町(ゆりはまちょう)となっています。



【正解】 a) 選挙・d) 忘れ物
正解率72% 難易度12位

★★★★★★
【ここまでの正解リスト】
①イまたはア ②コ ③ソ ④テ ⑤ネ・ナ(逆順不可)
⑥ヘ ⑦ム・モ ⑧ヤ・ラ ⑨ン ⑩a・d




これでクイズの3分の2の解答発表が終了。

この先5題は、成績上位陣にとっては無風地帯に近い状況だったが、それでもポツン、ポツンと取りこぼしによる順位変動がある。