2011年5月11日水曜日

▲「担当編集者から」VOL.44 『「初恋の湯」殺人事件』@講談社文庫

▽『「初恋の湯」殺人事件』が、513日に講談社文庫から発売になります。

島崎藤村ゆかりの地、小諸に実在する老舗の高級温泉旅館・中棚荘。そこで行われる初恋の思い出をめぐるイベントに、ひょんなきっかけから参加するため東京からやってきた志垣警部が奇妙な殺人事件に遭遇します。


中棚荘には、りんごの甘い香り漂う「初恋りんご風呂」という名物温泉がありますが、まるでそれを再現するかのように、ある民家でたくさんのりんごが浮かべられた風呂に青年が沈められており、嫌疑がふたごの女子高校生にかけられます。

その事件を担当する女性刑事は出産退職を1週間後に控え、しかもお腹にいるのはふたごだったのです!

▽そうとなればほうっておけない志垣警部、彼女を助けるためにいざ立ち上がる――という、洒脱&軽妙なミステリーです。



ここでいきなり担当編集者の個人的な話で恐縮ですが、この作品は上質なミステリーとしての楽しみはいわずもがな、思春期まっさかりの高校生に日々手を焼いている母親として、作品内のキーパーソンであるふたりの女子高生が子どもから大人へと変わっていくときの心理描写が的確になされていて、納得したり教えられたり、と感心しきりでした。

▽ミステリーの楽しみ方は10人いれば10人がちがうと思いますが、そんなふうにプロット以外にも「心の栄養」が得られる読書体験は、それほど多くありません。

初恋真っ最中の人も、志垣警部のようにはるかかなたの思い出となっている人も、わたしのように子育て真っ最中の人にも、そしてそんなことなどすべてとっくに卒業したと思い込んでいる人にも、さまざまな読み方ができるこの作品をぜひ楽しんでいただきたいと思います!
(講談社文庫 佐々木啓予)



 【作者からひとこと】
☆小諸にある中棚荘のお風呂は、季節のりんご風呂はもちろん、脱衣場が浴場と扉などで区切られていない同じスペースにあるにもかかわらず、畳敷きである点にびっくりさせられたのを、いまでもよく覚えています。

☆長野県内には、冬場になるとりんごを浮かべる温泉がほかにもありますが、中棚荘はこの畳敷きの脱衣場が、なんとも印象的でした。

☆もちろん、本作のアイデアは、この宿のりんご風呂に浸りながら考えたものです。



☆さて本作、ふたごの赤ちゃんを妊娠して、子育てに専念するため退職直前の杉山優花刑事に、やたらとセクハラめいた無神経な発言を繰り返す黒崎警部という男が出てきます。

☆こういう無神経キャラを書くのは好きですねえ(笑)。その彼のラストシーンでの出番。そこが作者としてはお気に入り、と申し上げておきましょう。